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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1499号 判決 1996年12月12日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人甲野夏子に対し、金五九七六万五二四六円及び内金五四三六万五二四六円に対する昭和五四年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人は、控訴人甲野太郎、同甲野花子に対し、それぞれ金二二〇万円及び内金二〇〇万円に対する昭和五四年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟の総費用はこれを三分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

三  この判決は、第一項の1及び2に限り、仮に執行することができる。

理由

一  当事者及び診療契約の締結、控訴人夏子の出生とその後の経過及び現在の状態とその原因、被控訴人の債務不履行のうち、控訴人夏子の入院中の経過観察及び黄疸に対して適切な措置を取るべき注意義務違反の点、並びに退院時期を誤り控訴人夏子を退院させたことについての注意義務違反の点については、次に付加、訂正する他は、原判決一五枚目表二行目から二四枚目表二行目までのとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目裏三行目末尾に「、第一六号証の一ないし八〇、第一八号証」を、同枚目裏七行目の「花子」、「被告」の次にそれぞれ「(原審及び当審)」を、同行目の「結果」の次に「(ただし、以上のうち後記措信しない部分を除く。)」をそれぞれ加え、同一六枚目表一〇行目の「生後四日目」とあるのを「同年九月二五日(生後四日目)」と、同枚目表一二行目の「生後六日目」とあるのを「同月二七日(生後六日目)」と、同枚目裏一行目の「生後一〇日目」とあるのを「同月三〇日(生後一〇日目)」と、同枚目裏二行目の「増悪」を「増強」とそれぞれ改める。

2  原判決一六枚目裏三行目の「被告は」を「ところで、控訴人花子は、被控訴人の医院に入院して長男一郎、長女春子を順次出産したが、このどちらにも黄疸が出たこと、控訴人夏子の出産は三人目となるが、この場合は黄疸が強くなると児が死ぬかもしれないと他人から聞かされ、また、母子手帳にも血液型の不適合と新生児の重症黄疸に関する記載があったことなどから第三子である控訴人夏子に黄疸が出ることを不安に思い、被控訴人に控訴人夏子の血液型検査を依頼した。被控訴人は、これに応じて」と改め、同枚目裏一〇行目末尾の次に、「そして、被控訴人は、控訴人花子らに対し、同控訴人らにとって、控訴人夏子には血液型不適合はなく黄疸が遷延するのは未熟児だからであり心配はないと理解される内容の説明をしていた。」を、同枚目裏一一行目の「退院した」の次に「昭和四八年(以下、昭和四八年を省略する。)」をそれぞれ加える。

3  原判決一七枚目裏四行目の「一〇月八日」の次に「午前一一時ころ」を、同枚目裏五行目の「原告夏子は、」の次に「体温三五・五度、体重二〇四〇グラムで、」を、同八行目の「状態」の次に「(後弓反張は認められない。)」をそれぞれ加え、同一二行目の「すぐに」を「同日午後五時三〇分から午後七時三〇分にかけて」に改め、同一八枚目表四行目「花子」の次に「(原審及び当審)」を加える。

4  原判決一九枚目表六行目の「これらの記載」から同枚目表一二行目の「推認できる。」までを「乙第二号証の一の記載は、淀川キリスト教病院の竹内徹医師が一〇月八日午前一一時ころ控訴人夏子を外来で診察した際に控訴人花子に対してなした問診の結果を記録したものであり、また、乙第二号証の四の記載は、右診断の結果控訴人夏子の入院が決定した後同病院の医師内坂徹が同日午前一一時四〇分ころ控訴人夏子を診察した際に控訴人花子に対してなした問診の結果を記録したものであることが認められるところ、控訴人花子が黄疸の危険性を認識し、血液型検査を依頼したり、被控訴人に控訴人夏子の黄疸症状について繰り返し説明を求めていること等の前記認定の事情をも考え合わせると、控訴人夏子の黄疸症状について正確に観察し記憶していた控訴人花子がその記憶に基づき答えた内容をそのまま記録したものと推認することができる。」と改める。

5  原判決二〇枚目表五行目の「信用できない。」とあるのを「採用できない。」と改め、その次に「また、当審における控訴人花子本人尋問の結果中には、同控訴人が控訴人夏子の黄疸が重篤で手遅れである旨聞かされて茫然自失となり、医師の問診についてはよく覚えていない旨の供述部分もあるが、前掲乙第二及び第三号証の各一、二の記載内容や原審証人竹内徹、同内坂徹の各証言に照らして採用することができない。なお、成立に争いのない甲第一七号証の二(医師加部一彦作成の「鑑定書」と題する書面、以下「加部鑑定書」ということもある。)の第一項(「本症例における黄疸の経過について」)及び第二項(「退院後の黄疸増強の可能性について」)には、控訴人夏子の黄疸症状の経過について前記認定と異なる記載がみられるが、右は、前記認定の控訴人夏子の被控訴人医院の入院前後の状況と異なる事実関係を前提とするものであって、採用できない。」と加える。

6  原判決二〇枚目裏一三行目の「認めることができ、」の次に「さらに、当審鑑定人中村肇の鑑定結果及び当審証人中村肇の証言によれば、母子ABO血液型不適合による溶血が存在していたとするならば、生後八日目には著しい血清ビリルビン値の上昇をすでにきたしているのが通例で、それ以後になって不適合のみが原因で黄疸が増強することは考えられず、また、生後一週以後もなお黄疸が上昇傾向にあった場合には血液型不適合による溶血を原因とすることは考えられないことが認められ」を、同二一枚目表九行目の「認めることができる。」の次に「更に、当審鑑定人中村肇の鑑定結果及び当審証人中村肇の証言によれば、生後一八日目(一〇月八日)にみられた核黄疸は、生後一〇日目(九月三〇日)に被控訴人の医院を退院していたときに存在していた黄疸が遷延しているところに、退院後の重複する黄疸増強因子すなわち感染、哺乳力低下、脱水が加わり生じたものと考えるのが妥当であり、また、脱水が来る位哺乳力低下を来すには感染症がその基礎となっていることが大半であると認められる。そして、前記認定の控訴人夏子の症状経過に右認定事実を考え合わせると、控訴人夏子の黄疸は、被控訴人の医院退院時においてすでに生理的黄疸の域を超えていたとは認められず、一〇月三日ころから感染症(なお、感染時期を特定することはできない。)を基礎疾患とする哺乳力低下、脱水が発現し、黄疸が急速に増強し核黄疸になったと認めるのが相当である。」をそれぞれ加え、同枚目裏七行目から八行目の「信用できない。」とあるのを「採用できない。また、前記加部鑑定書(甲第一七号証の二)中には、一般的には、黄疸の増強を認めるような感染症は決して軽症のものではなく、どちらかといえば重症感染症に認められる所見といえるが、本例の全身症状悪化の背景に感染症の存在を完全には否定できないものの、前述のごとく、それよりも前からあった黄疸が退院後も漸次増強していったと考えたほうが、急激な黄疸の出現及びその原因としての「感染」を考えるよりも無理がないものと思われるとの記載がみられるが、前記のとおり、右記載は、前記認定の控訴人夏子の症状経過に反している上、当審証人中村肇の証言によれば、軽度の感染症であってもこれにより全身状態が侵されて脱水等他の核黄疸の要因が増強されて脳障害を引き起こすに至ることが認められるのであって、前記認定の控訴人夏子の核黄疸の原因を覆すに足りるものとはいえず、採用の限りではない。」と改める。

二  原判決二四枚目表三行目以下を次のとおり改める。

「4 控訴人の退院時の措置について

更に、控訴人らは、被控訴人には、控訴人夏子の退院に際し、控訴人太郎及び同花子に対し、核黄疸について説明を与えた上、退院後の療養方法につき具体的な指示をする義務があるのにこれを怠ったばかりか、積極的に控訴人花子及び同太郎らの注意義務を低下させ、異変に対して直ちに適切な処置をとらせるという行動を心理的に制限していた旨主張する。

前記認定のとおり、被控訴人は、控訴人夏子が被控訴人の医院を退院する際に、控訴人花子に対し、何かあったらすぐに被控訴人医院を来院するか近所の小児科医で診察をうけるように注意を与えているところ、原審における被控訴人本人の尋問結果中には、黄疸が増強すれば脳性麻痺になる可能性があるから大変である旨説明することが望ましいが、新生児には核黄疸に限らず、様々な致命的な疾患に侵される危険があるから、それら全部につき専門的な知識を両親に与えるのは不可能であり、また、新生児がそれらの疾患に罹患すれば普通食欲の不振等が現れ全身状態が悪くなるのであるから、退院時には、新生児の全身状態に注意し何かあれば来院するよう指導すれば一応の注意義務を果たしたことになる旨供述し、鑑定人竹内徹の鑑定結果中にも退院の際にはその後の体重増加が悪く、飲みが悪かったり、何か変わったことがあれば、診察ないし相談に来るように注意しておくことが必要であり、これがABO式血液型不適合があると当初から判明していた場合であっても、前記のようにこれによって重症黄疸になるのはまれであるから同程度の指導で足りる旨の右被控訴人の供述に副うかのような部分が存する。

しかしながら、前記当事者間に争いのない事実によれば、新生児の疾患である核黄疸は、これに罹患すると死に至る危険が大きく、救命されても治癒不能の脳性麻痺などの後遺症を残すものであり、生後間もない新生児にとって最も注意を要する疾患の一つということができるが、核黄疸は、血液中の間接ビリルビンが増加することによって起こるものであり、間接ビリルビンの増加は、外形的症状としては黄疸の増強として現れるものであるから、新生児に黄疸が認められる場合には、それが生理的黄疸か、あるいは核黄疸の原因となり得るものかを見極めるために注意深く全身状態とその経過を観察し、必要に応じて母子間の血液型の検査、血清ビリルビン値の測定などを実施し、生理的黄疸とはいえない疑いがあるときは、観察をより一層慎重かつ頻繁にし、核黄疸についてのプラハの第一期症状が認められたら時期を逸することなく交換輸血実施の措置を執る必要があり、未熟児の場合には成熟児に比較して特に慎重な対応が必要であるが、このような核黄疸についての予防治療方法は、控訴人夏子が出生した当時既に臨床医学の実践における医療水準となっていたものといえるところ、前記認定のとおり、本件の場合、控訴人夏子には、生後四日を経た昭和四八年九月二五日ころから認められるようになった黄疸が同月三〇日の退院時においてもなお残存していた上、控訴人夏子は、体重二二〇〇グラムの未熟児として出生し、右退院時においても体重が二一〇〇グラムしかなかったのであり、しかも、控訴人花子は、被控訴人の医院で順次出産した長男や長女にも黄疸が出た経緯があり、控訴人夏子は三人目で、この場合は黄疸が強くなると児が死ぬかもしれないと他人から聞かされ、母子手帳にも血液型の不適合と新生児の重症黄疸に関する記載があったことから、第三子である控訴人夏子に黄疸が出ることを不安に思っており、そのため、控訴人花子は、被控訴人に控訴人夏子の血液型検査を依頼し、控訴人夏子の被控訴人医院入院期間中及び退院時に同控訴人の黄疸症状について説明を求めていたのである。

そうすると、産婦人科の専門医である被控訴人としては、退院させることによって自らは控訴人夏子の黄疸を観察することができなくなるのであるから、控訴人夏子を退院させるに当たって、これを看護する控訴人花子らに対し、黄疸が増強することがあり得ること、及び黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の低下などの症状が現れたときは、速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていたというべきところ、被控訴人は、控訴人夏子の黄疸について特段の言及もしないまま、何か変わったことがあれば医師の診断を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみで退院させているのであって、かかる被控訴人の措置は不適切なものであったというほかない。

そして、前記認定のとおり、被控訴人は、控訴人花子の依頼を受けてなした血液型検査において、判定を誤り、実際には控訴人夏子の血液型がA型であったのに母親である控訴人花子の血液型と同じO型とした上、控訴人夏子の黄疸を案じていた控訴人花子らに対し、控訴人夏子には血液型不適合はなく、黄疸が遷延するのは未熟児だからであり心配はない旨の説明をしていたところ、《証拠略》によれば、控訴人花子は、一〇月八日控訴人夏子を淀川キリスト教病院に連れていくに際し、控訴人太郎が控訴人夏子に黄疸の症状があるのは未熟児だからであり、心配はいらないとの被控訴人の言を信じきって同行しなかったため、知人の乙山松子に同伴してもらったが、同病院の竹内医師から控訴人夏子が重篤な状態にあり、直ちに交換輸血が必要である旨告げられて驚愕し、乙山を通じて控訴人太郎に電話したが、急を聞いて駆けつけた同控訴人は、竹内医師から直接話を聞きながら、なお、その事態が信じられず、竹内医師にも告げた上で、被控訴人に電話したが、被控訴人の見解は依然として変わらず、最後は被控訴人から信用できないなら勝手に交換輸血をしたらいいと言われて一方的に電話を切られた後、ようやく竹内医師の手で控訴人夏子のため交換輸血が行われたことが認められるのであって、右認定事実に照らすと、控訴人花子らが被控訴人の医院退院後、控訴人夏子の黄疸を案じながらも病院に連れていくのが遅れたのは、被控訴人の右説明を信頼していたからにほかならないものと考えられる。

このような経緯に照らせば、退院時における被控訴人の適切な説明、指導がなかったことが控訴人花子ら認識、判断を誤らせ、結果として受診の時期を遅らせて交換輸血の時期を失わせたものというべきであり、被控訴人の退院時の措置に過失があったといわざるを得ない。

そして、前記認定のような事情に照らすと、被控訴人の右退院時の措置の不適切により控訴人夏子の核黄疸が生じて、同控訴人に脳性麻痺の後遺症を残すに至ったものというべきであるから、被控訴人は、右退院時の不適切な措置によって生じた控訴人らの損害を賠償する義務があるといわなければならない。

なお、被控訴人は、控訴人花子及び太郎は、控訴人夏子に哺乳不良、元気沈衰などの発現した時点において、もしくは、遅くとも黄疸増強が明らかに楽観視しえなくなった時点において、被控訴人あるいは他の小児科医に速やかに受診させなかった過失があるから、過失相殺の法理に基づき損害賠償額の大半につき減額されるべきであると主張するが、控訴人花子らが控訴人夏子を病院に連れていくのが遅れたのは、被控訴人の不適切な説明を信頼していたからにほかならないこと前記認定のとおりであって、このような事情に照らすと、右受診の遅延について控訴人らの側に過失があったとはいえないから、被控訴人の右主張は採用することができない。

四  控訴人らの損害について

1  控訴人夏子の損害

(一)  逸失利益 金一四三一万四二五八円

《証拠略》によれば、控訴人夏子は、核黄疸による脳性麻痺の後遺症により、強度の四肢の運動機能障害が存し、筋緊張が強く、不随意運動もあるため、日常生活に必要な動作が一切できないことが認められ、右認定事実によれば、控訴人夏子は、その生涯を通じて労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。

そして、前記認定のとおり、控訴人夏子は、昭和四八年九月二〇日に出生した女性であるが、昭和四八年簡易生命表の同性、同年代(生後一か月)の者の平均余命が七六・四二歳であること(当裁判所に顕著な事実)から、同控訴人は、少なくとも一八歳から六七歳に達するまでの四九年間稼働することができるものと推認することができ、また、労働省(統計情報部)発行の昭和四八年度賃金センサス第一巻第一表産業計学歴計女子労働者の全年齢平均の年間給与額が金八七万一八〇〇円であること(当裁判所に顕著な事実)から、控訴人夏子は、右稼働期間中の労働により右金額程度の収入を得ることができたものと推認することができる。

したがって、これらの数値を前提にして、新ホフマン方式を用い年五パーセントの中間利息を控除して、控訴人夏子の後遺症発生時である昭和四八年当時の同控訴人の逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり、金一四三一万四二五八円となる。

871、800×(29・0224-12・6032)

=14、314、258

(二)  看護費用 金二二六一万五六九二円

前記認定の控訴人夏子の後遺症の状態に、《証拠略》を総合すれば、控訴人夏子は、核黄疸による脳性麻痺の後遺症のため、生涯にわたって常時他者の介護を必要とする状態にあることが認められる。

そして、控訴人夏子の看護費用は、昭和四八年当時においては一日につき金二〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、前記のとおり、同控訴人と同性、同年代の者の平均余命が七六・四二歳であることから七六年間は他者の介護を受けるものと推認されるので、前同様に新ホフマン方式により中間利息を控除して、右後遺症発生時である昭和四八年当時の右看護費用の現価を計算すると、次の計算式のとおり、金二二六一万五六九二円となる。

2、000×365×30・9804=22、615、692

(三) 治療費 金七四三万五二九六円

前記認定の控訴人夏子の後遺症の状態に、《証拠略》を総合すれば、控訴人夏子は、生涯にわたり、右後遺障害回復のためのリハビリ治療をする必要があり、そのため治療費及び通院交通費として月額金二万円を支出せざるを得なくなったことが認められる。

そして、前記のとおり、同控訴人と同性、同年代の者の平均余命が七六・四二歳であることから、七六年間は右治療を受けるものと推認されるので、前同様に新ホフマン方式により中間利息を控除して、右後遺症発生時である昭和四八年当時の右治療費の現価を算定すると、次の計算式のとおり、金七四三万五二九六円となる。

20、000×12×30・9804=7、435、296

(四) 慰謝料 金一〇〇〇万円

前記認定の控訴人夏子の脳性麻痺の後遺症の程度、診療経過その他本件記録に現れた諸般の事情に照らすと、控訴人夏子の精神的苦痛に対する慰謝料は金一〇〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 金五四〇万円

弁論の全趣旨によれば、控訴人夏子は、控訴人ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、弁護士費用として弁護士報酬規定内の適正費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の内容、認容額等の諸事情に照らすと、被控訴人の行為と相当因果関係にある弁護士費用としては金五四〇万円が相当である。

2  控訴人太郎及び同花子

(一)  慰謝料 各金二〇〇万円

控訴人太郎及び同花子が控訴人夏子の父母であることは当事者間に争いがないところ、前記認定の控訴人夏子の脳性麻痺の程度、診療経過その他本件記録に現れた諸般の事情に鑑みれば、控訴人太郎及び同花子は、子である控訴人夏子の死亡にも比肩するような精神的苦痛を被ったことが推認されるところ、右苦痛に対する慰謝料は、それぞれ金二〇〇万円が相当である。

(二)  弁護士費用 各金二〇万円

弁論の全趣旨によれば、控訴人太郎及び同花子は、それぞれ控訴人ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、弁護士費用として弁護士報酬規定内の適正費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の内容、認容額等の諸事情に照らすと、被控訴人の行為と相当因果関係にある弁護士費用としてはそれぞれ金二〇万円が相当である。

3  したがって、控訴人夏子の損害額の合計は、金五九七六万五二四六円となり、また、控訴人太郎及び同花子の損害額の合計は、それぞれ金二二〇万円となる。」

三  結論

以上によれば、控訴人らの請求はいずれも右金額の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は右の限度で不当であるから、変更を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑 豊 裁判官 神吉正則 裁判官 奥田哲也)

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